編集長 伊集院光の一言 ついさっきまで後輩芸人10人を引き連れて飲んでいた。 こういう場合我々の業界の暗黙のルールとして一番キャリアが上のものが 全部払うと言うことになっているので僕が勘定を持つことになったのだが、会計を見てビックリ。 メて6万円也。 高級店に繰り出したわけではない。 池袋の居酒屋でだ。 僕だって若手時代はそうやって先輩からご馳走になってきたのだから文句はない。 文句はないが、このデフレ時代低価格競争真っ只中のチェーン系酒屋で1人あたり6千円も食うとは感心する。 感心しているだけで文句はない。 最初にメニューを選んでいる時点で 「若いうちは遠慮するなよ、こんな時にしか腹いっぱい食えないんだから好きのものをドンドン食え」 と言ったのは僕だ。 だからといって本当に好きなものをドンドン食って良いのだろうか。 愚痴ではない。 「いいのかどうか少し考えてみようよ。みんな」という提案だ。 芸人というのは日本語を自由自在に操る商売だ。 そして日本語は表面上の意味合い以外にいろんな意味合いを含む奥深い言語だ。 「遠慮しないので好きなものを食え」という言葉の裏に 「刺身の盛り合わせや地酒以外で」という意味を読みとれないような君たちの将来はないよ。 「今日は無礼講じゃよ」 と言う上司の言葉をそのまま受け取ってカツラをむしり取る馬鹿がいるだろうか、、、 勿論僕は6万円を嘆いているのではない。 最近の若者たちの非常識ぶりを嘆いているのだ。 しかも今回僕はシェイプアップのための食事制限中につき、大根サラダばかり食べていた。 っせんぱいが大根サラダを食べていると言うことは、 後輩が選べるメニューはおのずとお新香か鳥皮焼きに制限されているのがマナーだろうに。 愚痴じゃない。 あくまでディナーの席でのマナーの話だけれど。 確かに後輩の内の何人かは僕に気を遣ってくれた。 僕の皿が空になるたびに 「すみませーん店員さーん!大根サラダ御代わりお願いします。 それからサイコロステーキを2人前と中トロ刺身を3人前」 気を遣ってくれるのならば最後まで気を遣ってくれませんか。 小言じゃない。 決して小言ではない。 曲がりなりにもテレビに出ている僕が、入ったばかりの後輩から尊敬されている立場の僕が、 たかだかチェーン系の居酒屋の会計のことで小言など言うわけがない。 よく読んで欲しい「気を遣ってくれませんか」だ。 ちょっとしたお願いだ。 で、帰り際、なにやら後輩芸人達が盛り上がっている。 聞けば「このあと池袋西口界隈にあるちょいとHなお店に繰り出そう」てな話で盛り上がっていると言う。 すると間髪入れずに後輩の1人が 「伊集院さん今日はご馳走様でした。僕らこれからちょっとアッチの方に行こうと思ってるんですが、 伊集院さんはテレビに出てるから目立つし、何かあったらまずいですからここで、、、」 と切り出してくれた。 本当に気が利く後輩だ。 僕はこういうことは嫌いだし、何より愛する妻を悲しませるようなところには いくら後輩に誘われても行くことは出来ない。 熱心なクリスチャンだし、写真週刊誌にでも撮られた日には合計20社とのCM契約もパーだし、 テレビ15本ラジオ10本のレギュラーもクビだ。 本当に良かった。 僕も何も怖い間のなしの若手だったらなぁ、、、。 こんな優しい後輩達に囲まれている幸せをみんなに伝えたかったのでコラムに書いてみた。 (以上、全文1,359文字÷テーマ「先輩後輩」4文字、339倍返しでお送りしました。)